【簡単まとめ】なぜ良い戦略が利益に結びつかないのか

【簡単まとめ】なぜ良い戦略が利益に結びつかないのか

PwCグループの戦略部隊であるStrategy&が刊行した「なぜ良い戦略が利益に結びつかないのか -高収益企業になるための5つの実践法(日本版2016年12月 第1刷発行)」を紹介します。

本記事は、333ページにわたる書籍のエッセンスを、個人的な見解にもとづき簡単にまとめています。概要把握や用語の整理に活用ください。正確な情報は公式サイトや書籍を参照いただけると幸いです。

PwC Strategy&書籍の公式サイト

どんな本か

本書では、成功している企業が、戦略を実行のギャップをいかに埋めているかを、5つのリーダーシップ行動様式にまとめています。高収益企業14社を分析し、行動様式を構築するツールを掲載し、企業が目指す方向と、達成するための能力をつなぐ手引き書になっています。

コヒーレンス(一貫性)とは

成功している企業は、戦略と実行のギャップを埋める能力、コヒーレンス(一貫性)を有しています。コヒーレンスとは、3つの戦略要素がうまく整合した状態を表します。

  • その企業と他者の違いを際立たせるバリュープロポジション(価値提供)
  • 特徴あるケイパビリティが相互に強め合い、価値提供を実行できるようにする体系
  • ケイパビリティを活かす商品・サービスのポートフォリオ

リーダーシップ5つの行動様式

コヒーレンスを有する企業には形は異なれど、似通った行動様式があるそうです。

  1. 自社の独自性を貫く
  2. 戦略を日常的に落とし込む
  3. 自社の組織文化を活用する
  4. 成長力を捻出するためにコストを削減する
  5. 将来像を自ら作り出す

自社の独自性を貫く

従来型の企業は、成長に焦点を当て、最も収益を上げやすい分野で収益を上げようとします。しかし、これでは空回りに陥り、勝つ可能性の低い複数の市場を追いかけることになります。

コヒーレンスを有する企業は、勝てるところで戦います。もともと得意な分野を自覚し、「何を売るか」ではなく、「どのような会社か」に基づいたアイデンティティを意図的に貫きます。

戦略を日常業務に落とし込む

従来型の企業は、業界のベストプラクティスを寄せ集め、全領域で秀でようとします。しかし、どの領域も極められず、二兎を追う者は一兎をも得ず状態になります。

コヒーレンスを有する企業は、自社の最も特徴あるケイパビリティを全社に横断的に展開します。従業員一人一人がこだわりをもって行動できており、戦略の実現につながっています。

関連記事→戦略を日常の活動や習慣に浸透させる3ステップ

自社の組織文化を活用する

従来型の企業は、戦略の実現や問題の解決にむけて組織や文化の再編を繰り返します。しかし、行動の変革にまでは至りません。

コヒーレンスを有する企業は、もともと持つ組織文化(思考パターンや行動パターン)を活用し、集団としての熟練度を高める。クリティカル・フュー(少数だが重要)による文化醸成を目指します。

成長力を捻出するためにコストを削減する

従来型の企業は、一律にコスト削減を実施します。これにより重要なものへの投資が削られ、重要性が低いものへの投資の比率が上がってしまいます。

コヒーレンスを有する企業は、コスト管理自体をアイデンティティや方向性に関する重要な選択の手段とします。戦略的に重要な事項以外はすべて捨てて、節約した金をケイパビリティ体系充実のために再投資する。

関連記事→成長への企業変革

将来像を自ら作り出す

従来型の企業は、市場の変化に受動的に対応を続けます。

コヒーレンスを有する企業は、初期の成功を土台にして、自社が最も得意なことを強化・拡大していきます。スーパーコンペティターとして、自社に有利なように業界の生態系を定義し、将来像を作り出していきます。

分析対象の14社とは

本書では、自社が安定的に得意とすることを活かして差別化に成功している企業について調査し、約50社を検討したそうです。その後この書籍で提唱している戦略アプローチに合致することなどいくつかの基準を設けて絞り込みました。14社は以下の通りです。

  • イケア
  • スターバックス
  • ファイザー
  • アップル
  • アマゾン
  • インディテックス
  • ハイアール
  • セメックス
  • ダナハー
  • フリトレー
  • アディエント
  • レゴ
  • ナチュラ
  • クアルコム

PwC Strategy&書籍の公式サイトにはリサーチ事例として各社の提供価値(バリュープロポジション)、ケイパビリティ体系、商品サービスのポートフォリオが掲載されています。

日本企業の成功例

海外事例は、日本と経営環境や事業環境が異なるため参考にならないと言われることがあります。訳者はこれについて、海外VS日本という単純な対比では整理が難しくなることに触れつつ、5つの行動様式が機能している日本企業の例を挙げています。

  • 星野リゾート
    • 価値提供:リゾート運営の達人、ホスピタリティ・イノベーター
    • ケイパビリティ:スタッフの多能工化
  • ヤマト運輸
    • 価値提供:流通ソリューションプロバイダー、生涯生活支援インフラ
    • ケイパビリティ:顧客志向のセールスドライバー
  • コマツ
    • 自身で新しい将来像を作りながら進化する企業例として

書籍にて紹介されているツール

書籍では、読者が5つの行動様式を適用するために以下のようなツールを紹介しています。

  • ケイパビリティの観点から見たポートフォリオ(努力を集中すべき事業を特定する3つの質問)
  • 自社のクリティカル・フュー要素を特定する(非公式リーダーを探す質問リスト)
  • 支出の整合(支出に関する質問リスト)
  • スーパーコンペティター・ワークショップ(経営者向けワークショップ)
  • リーダーのための質問と行動(5つの行動様式をチェックする質問リストです)

ピュアトーンの戦いのパターン

企業が顧客に提供する価値を共通の戦略要素に分解したものをピュアトーンと名付け、15種類に分類しています。

  1. アグリゲーター
  2. カテゴリーリーダー
  3. 業界内の再編者
  4. カスタマイザー
  5. 中抜き
  6. 経験の提供者
  7. ファストフォロワー
  8. イノベーター
  9. プラットフォーム提供者
  10. プレミアムプレーヤー
  11. 規制ナビゲーター
  12. 評判プレイヤー
  13. リスク吸収者
  14. ソリューション提供者
  15. バリュープレイヤー

 

ピュアトーンについての解説記事はこちらです。

おわりに

戦略や戦術などの知見は以前に比べて入手が容易になっています。だからこそ、どんな自社であれば自然体で最も強みを活かせるのか考え実行することが大事だと思います。本書はそのきっかけになりうる1冊です。

このブログを書いている人
電子書籍「システム導入のためのデータ移行ガイドブック」著者。 新卒から外資系コンサルティングファームに所属。15年に渡り販売物流、特にCRM領域のコンサルティングに従事。 100名を超えるプロジェクトのPMOなど全体を推進していく役回りや、ユーザ企業への出向を通じた実務経験を持つ。

このブログでは、自身がかき集めた知識や経験を共有する。クライアントへの提案やソリューション開発に直結しないガラクタのようなもの。将来再利用する自分のために。同じような悩みを抱える誰かのためにブログ「元外資系コンサルのガラクタ箱」を運営