「ザ・ゴール ― 企業の究極の目的とは何か」は、機械メーカーの工場長である主人公を中心に繰り広げられる工場の業務プロセス改善を主題にした小説です。
本記事では、書籍で扱う全体最適やTOC(Theory Of Constraints, 制約理論)>のエッセンスを簡潔に紹介します。生産管理やサプライチェーンマネジメントなどの課題に取り組まれている方が、ザ・ゴールのエッセンスを短時間でキャッチアップすることを目的に書いています。
- ザ・ゴールのエッセンスを短時間でキャッチアップすること
◆ザ・ゴール - 企業の究極の目的とは何か
過去に読んだもののあまり覚えていない方、読んだことがない方は最初に以下の問いを考えて読み進めてみて下さい。これらは主人公が、学生時代の恩師であるジョナから受けたものです。
以降ネタバレを含みますので、ご理解の上参照ください。
主人公が恩師ジョナから受ける問い
- 生産的であるとはどういう意味か?
- 企業の目標(ゴール)は何か?
- 企業の目標を測定する3つの指標は何か?
- 依存的事象(つながり)と統計的変動(ばらつき)の組み合わせの意味は?
- ボトルネックを最大活用する2つのポイントは何か?
残り2つはジョナからの問いではありませんが、主人公が見出した対策に関してです。
追加の問い
- ドラム、バッファー、ロープとは何か?
- 制約に集中し全体最適を実現する5つのステップとは何か?
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それぞれの問いに回答
生産的であるとはどういう意味か?
生産的であるとは、目標と照らし合わせて「何か」を達成したということです。
生産性とは、目標に向かって会社を近づける行為そのもので、反対に目標から遠ざける行為はすべて非生産的です。
つまり目標がはっきりわかっていないときには、生産性という概念は意味がなくなります。
企業の目標(ゴール)は何か?
企業の目標(ゴール)は、お金を儲け続けることです。
それ以外のすべては目標を達成するための手段です。
効率的に製品を作ることも、マーケットシェアを上げることも手段の一部に過ぎません。
企業の目標を測定する3つの指標は何か?
目標の達成具合をチェックするための指標としてジョナは3つの指標を開発しました。
企業の目標を測定する3つの指標
- スループット: 販売を通じてお金を作りだす割合
- 在庫: 販売しようとする物を購入するために投資したすべてのお金
- 業務費用: 在庫をスループットに変えるために費やすお金
の3つです。
スループットとは生産量ではなくあくまで顧客に売れたお金、がポイントです。
工場での労働時間も手待ち時間も業務費用です。機械やロボットは売れるならば在庫として扱えます。お金を払って得たもののうち、売れるものが在庫で売れないものが業務費用という整理になります
従来は、会社が儲かっているかを評価するために、純利益、投資収益率、キャッシュフローという3つの数値を同時に達成する必要がありました。しかし現場の人間のどの行動がこれらの数字に関わってくるのかわかりづらいことが課題でした。
ジョナは、スループット、業務費用、在庫というシンプルな3つの指標で工場のすべてが測定できると言います。
依存的事象と統計的変動の組み合わせは何を意味するか?
依存的事象(つながり)と統計的変動(ばらつき)の組み合わせは言葉が難しいですがお付き合いください。
先に「バランスのとれた工場」について説明します。
バランスのとれた理想の工場とは、すべてのリソースの生産能力が市場の需要と完全にバランスがとれている工場です。
生産能力の不足が原因で販売機会を失うことも、能力が余ることでお金を無駄にしてしまうこともないからです。
なぜこうした完全にバランスのとれた工場は存在しえないのでしょうか。
ジョナは、バランスのとれた工場ほど倒産に近づくから、と説きます。
例えば人を解雇して改善させようとすると、業務費用こそ減るものの、スループットも減り在庫が増えることが実証されています。
その理由が「依存的事象」と「統計的変動」の組み合わせです。
依存的事象と統計的変動
- 依存的事象(つながり): 複数作業の前後関係
- 統計的変動(ばらつき): 同じ作業に発生しうる時間のばらつき
この2つが組み合わさることで、リソースの能力を個別に評価し抑えると全体の目標が満たせなくなってしまうのです。
全体の目標を満たすためには、余分なリソースはあってもよいことを意味します。余分は出ても仕方ないのです。
そこで今度は、工場のリソースをボトルネックと非ボトルネックに分ける発想が登場します。
ボトルネックを最大活用する2つのポイントは何か?
「ボトルネック」とはその処理能力が与えられた仕事と同じかそれ以上のリソースのことです。
「非ボトルネック」とは与えられた仕事量より処理能力が大きいリソースです。
工場の能力を決めるのはボトルネックのリソースのため、ボトルネックを通過する処理量を市場の需要に合わせることがポイントになります。
ボトルネックを活用する方法は2つあります。
ボトルネックを活用する2つの方法
- ボトルネックの時間のムダをあらゆる方法でなくすこと
- ボトルネックの負荷を減らして生産能力を増やすこと
ムダをなくす例は、従業員の休憩時間を工夫して機械の停止時間を最小にすること、すぐ売れる見込みのない部品を作らないことなどです。
生産能力を増やす例は、下請けへの委託や以前に使っていた機械を再稼働させるなどの方法が考えられます。
ドラム、バッファー、ロープとは何か?
ドラム、バッファー、ロープはボトルネックのペースに合わせて資材をタイミングよく投入する方法をたとえで表現したものです。
ドラム、バッファー、ロープ
- ドラム: ボトルネックのペースに合わせて鳴らす資材投入の合図
- ロープ: 合図をしたとしても資材投入が早まってしまうのを防ぐのにつなぐもの
- バッファー: 納期を守るために全体に持たせるゆとり
バッファは、元々は物理的な衝撃を吸収して和らげる緩衝器のことです。これが転じて予備の時間を持っておくことで納期への影響を減らします。
制約に集中し全体最適を実現する5つのステップとは何か?
物語が進むにつれて、最初呼んでいたボトルネックは、制約という表現のほうが適切とされます。
そして、制約を高めるために集中して取り組むステップが明らかになります。
ボトルネックを解消する5つのステップ
- 制約を見つける
- 制約をどう徹底活用するかを決める
- 他のすべてをステップ2の決定に従わせる
- 制約の能力を高める
- ここまでのステップで制約が解消したらステップ1に戻る
このステップを営業業務に応用したのがキャッシュマシーンです、参考記事はこちらです→5分でわかるザ・キャッシュマシーン要約まとめ
おわりに
ザ・ゴールのエッセンスはここまでです。物語の結論は原作をお読み下さい。
他にもゴールドラット博士の著作は業務改善に役立つ内容が盛りだくさんです。制約条件の改善に取り組む5つのステップを進めるための思考プロセスは『ザ・ゴール2』、システム投資を利益に結び付けるテーマの『チェンジ・ザ・ルール』、TOCをプロジェクト・マネジメントに適用する『クリティカル・チェーン』などなど。
◆コミック版も発売されています。登場人物や舞台設定も日本版に変更されており短時間で理解しやすくなっています。
▼続編「ザ・ゴール2 思考プロセス」の記事はこちら
▼TOCをプロジェクト管理に応用したCCPM解説書「マネジメント改革の工程表」記事はこちら
▼ザゴールのTOCを営業戦略に応用したザ・キャッシュマシーンまとめ記事はこちら
新シリーズ記事書いてます→読者の半歩先を照らすようなブログ