問題点の因果関係を地図で表現した、問題地図シリーズ本をご存じでしょうか。
本記事では、そんな沢渡さんが少し前に書かれた「新人ガール ITIL使って業務プロセス改善します!」を紹介します。入社2年目の主人公、友原京子が購買部で業務改善リーダーとして奮闘する、小説型のITIL指南書です。
ITIL(アイティル)は、IT部門業務の成功事例集です。トラブルがあった時のヘルプデスク対応や、トラブル解決までのプロセスなどがまとまっています。
ITIL(アイティル)とは
ITIL(Information Technology Infrastructure Library)とは、ITサービスマネジメントにおけるベストプラクティス(成功事例)をまとめた書籍群です。1989年にイギリス政府によって公表されました。
ITサービスマネジメントとは、システムのユーザを顧客に見立てて提供するサービスを管理するものです。システム開発の各工程や、システムを安定して稼働させるための運用、改善を加えるための保守などが含まれます。
PMBOK(ピンボック)というプロジェクト管理の方法論をご存じであれば、それのIT部門版という理解で大きなズレはありません。PMBOKもベストプラクティスの集合であり、領域とフェーズごとにプロセスやツールが整理されています。
ITILのコアとなる5つの領域は以下の通りです。方針から詳細への落とし込みに加えて、継続的サービス改善が次の方針/戦略へとサイクリックにつながるプロセスとして含まれているのが特徴です。
- サービスストラテジ(全体方針/戦略)
- サービスデザイン(業務設計)
- サービストランジション(運営準備)
- サービスオペレーション(運営)
- 継続的サービス改善(測定/報告、改善)
実はIT部門ではないところにITILを応用する本だった
私も過去にITサービスマネージャーのような仕事をしていたため、ITIL懐かしいなと思い、なにげなく本書を手に取りました。
ところが、本書はIT部門やベンダーがITILを用いる本ではなかったのです。本書はIT部門やベンダーがITILを用いる本ではないことに買ってから気づきました。
化粧品会社の購買部で業務改善リーダーに任命された入社2年目の主人公が、先輩社員の紹介でITILを知り、活用していく物語です。
たしかにITILは業務のお手本として役立ちます。定常業務としてはPMBOK以上に役立ちます。
PMBOKはプロジェクト型の業務には役立ちますが、定常業務だとフィットしません。ITILは関連部門とのやりとり含めて、目標達成や課題解決などのノウハウが詰まっており、著者の意図されるとおり、IT以外の現場にも応用できるものなのです。PMBOKのコスト管理のようにグラフや数式も出てこないのでとっつきやすさも勝っています。
人気著者がITILをIT以外の業務改善に応用しようとした強い想い
以下の記事を読みました。沢渡さんがITILを購買部の業務に適用するストーリーを執筆しようとした理由について書かれています。
この本を執筆した背景~「新人ガール ITIL使って業務プロセス改善します!」
この本を、日のあたらない部署でモチベーションを下げているすべての人に送りたい
営業、マーケティング、開発、あるいは海外部門といった花形部門と比べて、ITや購買は日が当たらなくて社内でプレゼンスが低い部署とあります(そういう見方は否めないですよね)。
いずれにも共通しているのは…
「やって当たり前」
「感謝されない」
「トラブルを起こすと非難の嵐」
「煙たがられる」
残念ですが私も実感あります。夜間バッチがこけたら(私が、私”だけ”がこかしたわけじゃなくても)、緊急コールはとって当たり前なんです。運用保守と兼務していて連日ロールアウトの準備で遅くまで仕事をしていても、”迷惑かけてはならない”という理由で、プレッシャーのもとで対応を求められるのです。
そんなIT業界ですが、業界の知見が集められたものは素晴らしいものがあります。PMBOKもしかり、このITILもそうなのです。
そのとき現場メンバーには余計な負荷をかけまいとむやみに教材を紹介するのは控えましたが(そのくらい慢性的に負荷が高く、疲弊していました)。自分でチームを改善するためにITILの本を読んだり、社内のeラーニングや事例を集めたことを記憶しています。
なので沢渡さんの上記ブログ記事に非常に共感しました(以下、引用)
IT(それも運用のみ)の狭い世界だけでしか使われていない…
それを使うIT部門の立場がいつまでたってもあがらない…
そこで働く人たちのモチベーションは相変わらず低いまま…
これってもったいないし、悲しいじゃないですか!!私は、
素晴らしいITのやり方を、もっともっとIT以外の世界にも広める貢献ができたらな、
それによってIT部門のプレゼンスがあがればな、
そこで働く人たちのワクワクにつながったらいいな、
…そんなことを思って、この本を書きました。人ひとり、
人生のうちのおよそ80,000時間を仕事に費やすといわれています。
80,000時間ですよ、8万。その時間を、イヤイヤ過ごしていたらもったいないじゃないですか…
悔しいじゃないですか!だから、誇りを持って仕事をしましょう。
価値ある仕事をしましょう。
わたしたちは素晴らしい仕事をしているんだ。~この本を、日のあたらない部署でモチベーションを下げているすべての人に送りたい~
ぜひ「働き方改革」や「業務改善」の棚にも置いてほしい
本書は書店の本棚ではコンピュータ読み物のところに置かれていることが多い気がしました。これだとIT業界の人しか手にとるチャンスがありません。ぜひ働き方改革や、業務改善の棚にも置いてほしいです。